セミナー詳細

iPod + iTunes Digital Music Revolution~Innovation & Growth~

iPodのプロモーションビデオから始まった、前刀氏のプレゼンファイルは1GBを超える大容量のもの。“アップルコンピュータらしい”映像と音楽を駆使した講演内容で、集まった聴衆を魅了した。

やっぱりiPod×なるほどiPod×ずっとiPod

アップル前刀pict1前刀氏は、ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー・ジャパン、AOLジャパン、ライブドアを経て、2004年4月米国アップルコンピュータ マーケティング担当バイスプレジデントに就任。同年10月にはアップルコンピュータ日本法人代表取締役も兼務で就任した。全世界で爆発的な人気を誇るiPodのマーケティング仕掛人としても、名を馳せる。
講演では、iPodの成功を例に取りながら、カスタマー・エクイティ(顧客が生涯においてもたらしてくれる利益の正味現在価値)を最大化する、製品・サービスのプロモーション戦略について話した。
カスタマー・エクイティは、感情的・主観的に判断される「ブランドエクイティ」、客観的かつ合理的に判断される「バリュー(価値)エクイティ」、顧客と企業間の関係性構築によって生み出される「リテンション(顧客維持)エクイティ」という3つの要素を充足させることによって強化される。この3要素を前刀氏は、「やっぱりiPod(=ブランド)」「なるほどiPod(=バリュー)」「ずっとiPod(=リテンション)」という顧客視点に立った言葉で表し、iPodという強い製品によって生み出されたカスタマー・エクイティを、「やっぱりMac」「なるほどMac」「ずっとMac」、或いは「やっぱりApple」「なるほどApple」「ずっとApple」というように、異なる製品ブランド或いは企業ブランドまで波及させていくと、意気込みを語った。
前刀氏はまた、「やっぱりiPod」「なるほどiPod」「ずっとiPod」という顧客の支持を生み出した要素として、インタフェースが直感的で分かりやすいというようなiPodの①機能性だけではなく、その②デザイン性や、③従来にないデジタルミュージックプレーヤーの使い方の提案などによって、製品の魅力を引き上げた点にも言及した。なかでも「音楽の新しい楽しみ方を提案した点」(前刀氏)はiPodが競合製品と大きく異なる部分であるとして、その一例として、小型で安価なプレーヤーに「顧客の想像を超える組み合わせで音楽を持ち出して楽しむことができる」iPod Shuffleを挙げた。
また、iPodというハードウェア、iTunesという(音楽データをパソコン上で管理する)ソフトウェア、iTunes Music Storeという(音楽データをオンライン上で販売する)サービスの3つを、一社が一気通貫に提供することで顧客の利便性を高めた点にも触れた。

Innovation×Momentum×Dream

前刀氏によると、iPod等ビジネスの成功には、「Innovation(革新)」「Momentum(弾み、勢い)」「Dream(夢)」3つのキーワードが重要であるという。

Innovation
iPodシリーズは、「常に進化を続けている」(前刀氏)。「競合の常に先を行く。そのために古いものを捨て去る勇気を持ち続けること」。それが、「製品に限らず、企業や個人の人生にとっても、極めて大切なこと」と、前刀氏はいう。
実際、カラーバリエーションの豊富さで顧客を引き付けて日本国内のiPodブームの牽引役にもなった「iPod mini」シリーズを、薄型の「iPod nano」の発売を契機に、あっさりと廃盤にした鮮やかさは記憶に新しい。また自身も、「常にチャレンジを続けたい。惰性で仕事をするようになったら、次のステージを探す」と、活躍の場面を変え続けてきた。
その心の中には、以前に籍を置いたソニー(旧・東京通信工業)の設立趣意書にある「他社ノ追随ヲ絶対許サザル境地ニ独自ナル製品化ヲ行フ」という言葉が常にある、ともいう。

Momentum
製品をヒットさせる要件の一つとして、「いかにしてMomentum(弾みや勢い)を作り出すかが重要」というのが前刀氏の考え。
iPodの場合、それは2004年後半に始まった。「米国では2001年の発売時から人気を博していたものの、日本ではMDプレーヤーやCDプレーヤーが主流で、iPodのようなデジタルミュージックプレーヤーへの関心は低かった」(前刀氏)。これを変えたのが、iPod mini発売時に前刀氏が中心になって推進した日本独自のプロモーション戦略だったという。
カラフルなiPodをファッションアイテムの一つと位置づけるユニークなマーケティング戦略や、「iPodはパソコンの周辺機器ではなく、パソコンがiPodの周辺機器になる」という逆転の発想でメディアを引き付けるパブリシティ戦略を取ったところ、これが奏功して、iPod miniの発売日には開店前のアップルストアに2000人が行列を成し、それをマスコミがさらに報じるという、好循環へとつながっていった。
「Momentum Building(弾みや勢いの構築)に不可欠なのは、火がついたら、それを消さないように次の戦略へとつなげていくこと」。そして、「顧客の置かれたコンテクスト(context、状況)を的確に把握し、適切なタイミングに適切な情報や製品を提供していくこと」と、前刀氏は持論を述べる。
例えば、白いイヤホンを付けた若者のシルエットが踊るiPodのCMに、製品説明はない。これは、顧客の関心の喚起だけを狙ったものだからだ。顧客の関心を十分に引きつけた時点で(get attention)、情報提供をし(give more info)、販売する(transaction)。すなわち、製品やサービスへのニーズが生じた時点を適時捉え、それに合った情報や、製品・サービスを過不足なく提供して顧客の購買意欲を高めていくという、「コンテクスト・マーケティング」の手法を忠実に辿りながら、iPodは押しも押されもせぬヒット製品への階段を駆け上がってきた。それにより、2004年11月には、1位MDプレーヤー、2位CDプレーヤー、3位デジタルミュージックプレーヤーであった携帯音楽プレーヤーのシェアを、わずか3カ月後の2005年2月には、1位デジタルミュージックプレーヤー、2位MDプレーヤー、3位CDプレーヤーに覆すという偉業を達成したのである。

Dream
製品やサービスを提供していくうえで大切なものとして前刀氏が強調するのが「夢」。ウォルト・ディズニーの言葉、「If you can dream it, you can do it. Always remember that this whole thing was started with a dream and a mouse.」を引き、全ては夢を抱き、それを信じることから始まると、聴衆に向けて熱くメッセージを送った。「明日には無限の可能性がある。」(前刀氏)

アップル前刀pict3講演の中で前刀氏は、「Consumers… Not Technology!」という言葉を引いた。
ソニー在籍時のエピソードとして、研究所で開発された3D画像処理システムが最初は何に使えるか分からなかったが、数年後に小型化されてテレビ局用の特殊効果システムとして実用化、そしてさらに数年後に今度はICチップとしてゲーム機のPlay Stationに搭載されて本格的に普及したというエピソードを紹介し、「どんな優れた技術も、顧客ニーズがあって初めてその力を発揮する」と、言及。自身は、「優れた技術を、顧客が望む製品やサービスへと昇華させる一助となり続けたい」と、思いを語った。
iPodは、MDプレーヤーが主流であった携帯音楽プレーヤーの市場に旋風を巻き起こし、一気にトップシェアをものにした。その成功の背景には、iPodという製品を作り上げた技術以上に、顧客が望むものを創造し、適切な手法によって届けた、マーケティング手法の見事さが光る。
顧客ニーズは時々刻々と変容し、またその内容は顧客の置かれる環境によっても大きく異なる。ビデオ再生機能の搭載や、iTunes Music Storeによる幅広い顧客層に応じた音楽データの販売など、iPodは進化を続けている。それは、顧客が潜在的に抱えるニーズに常に添い続けられるものなのか—。iPodと前刀氏のその後に、まだまだ目が離せそうにない。

ゲストスピーカー

前刀禎明 〔さきとう・よしあき:アップルコンピュータ株式会社 代表取締役〕

1983年3月 慶應義塾大学大学院管理工学修士課程修了
1983年4月 ソニー株式会社入社
1989年1月 ベイン・アンド・カンパニー入社
1991年5月 ウォルト・ディズニー・ジャパン入社
1997年1月 AOLジャパン入社 コンテンツ部門統括ゼネラルマネージャー
1998年11月 同社 マーケティング・コンテンツ両部門統括バイスプレジデント
1999年9月 株式会社ライブドア 代表取締役社長兼CEO
2004年4月 米国Apple マーケティング担当バイスプレジデント
2004年10月 アップルコンピュータ株式会社 代表取締役を兼務

現在、米国Apple マーケティング担当バイスプレジデント
兼 アップルコンピュータ株式会社 代表取締役 47歳(講演時)