セミナー詳細

グロービス経営大学院大学開学記念講演 第一回

【開催日】2005年12月16日(金) 【会場】グロービス東京校/(同時中継)大阪校、名古屋校

「創造」の部 三木谷浩史氏〔楽天株式会社代表取締役会長兼社長〕

第一部:基調講演 三木谷浩史氏〔楽天株式会社代表取締役会長兼社長〕

第二部:記念対談 三木谷浩史氏〔楽天株式会社代表取締役会長兼社長〕堀 義人〔グロービス経営大学院 学長〕

第一部:基調講演 三木谷浩史氏〔楽天株式会社代表取締役会長兼社長〕

楽天三木谷pict4 このたびは、文部科学省より正式に、経営大学院大学開学の許認可を得られたとのこと、本当におめでとうございます。開学に先立ち本日は、“MBA”“起業”などのテーマで話をして欲しいとのことで、米国Harvard Business Schoolの同窓である堀社長よりお招きをいただきました。

 私が楽天の前身となるエム・ディー・エム(1999年6月に楽天に社名変更)を設立したのは今から約9年前、1997年2月に遡ります。当時のパートナー、本城慎之介氏と2人、最初は私が暮らしていた8畳ひと間の小さなアパートメントからのスタートでした。東京・御徒町のディスカウントストアに行って、自分達で長細い机を選び、購入したことなどが懐かしく思い起こされます。その楽天も今や、従業員約3500人(2005年9月末時点)を抱える大所帯となりました。

「MBA留学での経験が起業を考えるきっかけとなった」

 振り返って、なぜ私は楽天という会社を興そうと考えたのか――。私は一橋大学商学部を卒業後、1988年に日本興業銀行(以下、興銀)に入行。その後、1991年より社内留学という形で米国Harvard Business School(以下、HBS)に学びました。 HBSの同級生の間では、“アントレプレナーシップ(=起業家精神)”が非常に価値あるものとして位置づけられており、それが私に少なからず影響を与えたと思っています。

 日本では当時、“ベンチャー”“アントレプレナーシップ”といった言葉はまるで広まっていませんでしたし、大企業に勤め、そこで出世していくというのがビジネスマンの王道とされていました。ところが米国には、自ら起業することが優れたビジネスマンの王道であり、大げさに言えば「自分で起業できない人が既存の企業に勤める」という空気すらあった。そうした雰囲気の中に自分の身を置いたことで、徐々に自らも企業を起こすのだという覚悟のようなものが育っていったのだと思います。

 ただ、そうは言ってもHBSへは社費で留学させてもらったわけですし、「どちらにせよ5年間は辞められないな」などと思いながら、1993年に興銀に復職しました。けれど、1995年の阪神大震災を受け、考えが大きく変わりました。神戸は私自身の出身地であり、震災によって親族や友人など大切な人々を幾人も失ったことで、人生のはかなさ、短さを痛感させられたのです。

 その後、興銀には辞表を提出し、コンサルティング会社のクリムゾングループを作りました。1996年のことです。ソフトバンクの孫正義氏の M&A(企業の合併・買収)のお手伝いをさせていただいていたのもこのころ。“グループ”と言っても、わずか数名のスタッフが1日2時間睡眠で働くような状態で、それでも1年間に1億円近いコンサルティングフィーを稼ぎ出しました。ただ、1人でできることには限界があるし、疲労も蓄積する。そうしたなかで思いついたのが、「インターネット上にショッピングモールを作る」という現在のビジネスモデルの原型でした。

 「思いついた」といっても、インターネット上にショッピングモールを作るというアイデア自体は、実は決して新しいものではありません。メディアなどではよく、「楽天はfirst moverだから成功した」「競合がなかったからうまくいった」というような書かれ方をしていますが、当時、大手企業が既にネット上に市場を構築していた。私達の「楽天市場」はこの業界では最後尾に近い存在なのです。

 従って、起業に必要な資金を集めるのも大変でした。「大手企業ですら失敗しているのだから、ベンチャー企業が手掛けて成功するはずがない」というわけです。けれど私には、「ユーザや出店者が使いやすいと感じる仕組みさえ構築できれば、絶対に成功するはずだ」という確信がありました。このとき私達が立てた仮説が以下の4点です。

  ・インターネットは、もっと簡単に、もっと便利になる
  ・インターネットは、爆発的に普及する
  ・インターネットで、日本人はモノを買うようになる
  ・インターネットで、流通が変わる

 これらの仮説が現実のものになったことを、今は皆さんに実感していただけると思います。ベンチャー企業に最も必要なのは、先を見通して仮説を立て、それを信じて実践していく力にあると、私は思います。楽天の成功は、競合する企業がなかったからではなく、私達がネット市場の成長性を誰よりも強く信じてきたから得られたものと思うのです。

 ちなみに、非常に微妙な時期なので詳細には触れられませんが、今回のTBS株の取得についても根本にある信念は同じような性質のものです。「放送と通信の融合が当たり前のものとなる」という仮説を信じているからこそ、私達は早い段階から動いているのです。

「わずか4万円?視点次第で結果は大きく変わる! 楽天市場は、“倍・倍ゲーム”で急成長」

楽天三木谷pict5  もちろん、「楽天市場」が成功を収めるまでには非常に苦労しました。最初の出店者はわずか13社。しかも、その大半が知人・友人の会社でした。立ち上げから1カ月後の、売買高を示す数値、流通総額は32万円で、そのうち18万円は私が、10万円は社員が買ったものでしたから(笑)、実質わずか4万円だったわけです。それが今や、月間約400億円、年間では4000億円規模まで拡大しました。

 まさに“倍・倍ゲーム”のペースで来ているわけですが、倍・倍ゲームがどのようなものなのかを実感していただくために、ここで一つの例を挙げたいと思います。以前、いけない事ですが、ゴルフの結果を元にゲームをした人のことを聞いたことがあるのですが、彼らは1 ホール約100円から始め、ホールごとに掛け金が倍になるというルールでコースを回ったそうです。皆さんはこれを聞いて、「1ホール100円なら大したことがない」と思われたのではないでしょうか。
ところが、これが2ホール目に200円、3ホール目に400円、800円、1600円、3200円…と膨らんでいくと、10ホール目では5万円、18ホール目にはなんと1300万円にもなるのです。普通では考えられない話ですよね(笑)。

 これを「楽天市場」のケースに置き換えると、市場開設1カ月後の4万円という数字が別な意味を持って見えてきます。「たかが4万円では仕方がない」と考えるか、「今の段階で4万円なら、いずれ凄いことになる」と考えられるか。そして、「凄いこと」になってきたときを十分に予測したビジネスモデルを早い段階から構築できていたかが、勝敗を分けたのだと思います。

 それでは勝敗を分けたビジネスモデルとは何か。「楽天市場」の場合、出店費用を競合と比べて安価に抑えたことと、「RMS」と呼ぶ独自のソフトウェアを用意したことがブレークスルーになりました。RMSは画面の指示に従って、ネットのページを見るようにクリックを繰り返していけば、誰でも簡単にインターネットショップを開店できるし、編集もできるというものです。これを用意したことで、パソコンに不慣れな人でも手軽に出店したり、商品の入れ替えやレイアウトをリアルタイムで変更したりといった作業が簡単にできるようになりました。また、受注管理を行うためのツールや、マーケティング分析のためのツールなども併せて供給。加えて、どうすれば売れる店舗が作れるかというコンサルティングサービスにも注力しました。

 出店費用の低減や、RMS構築などの基となったのは、「出店者にとってのバリューチェーン(価値連鎖)を構築しよう」というコンセプトでした。出店者の店舗構築意欲が高まれば魅力的なコンテンツができ、魅力的なコンテンツが集まれば、ショップへの来客数が増加する。来客数が増加すれば問い合わせや売り上げ、収益が増加し、収益が上がれば店舗構築意欲が益々高まる――。このバリューチェーン構築の障壁となると考えたのが、オンラインショップの開設や情報更新の煩雑さ、時間的・金銭的コストの問題だったわけです。

「中小企業をEmpowerしたいそして次は海外へ――」

ベンチャー企業の成功に不可欠と私が考える要素のもう一つは、大義名分という言葉で言い表せるように思います。社会に対して、どのような価値をもたらすことができるのか。青臭いようですが、そうしたミッションを掲げることが、非常に重要だと思います。

 楽天の場合には、“Empowerment”という言い方をしていますが、中小企業の集合体を形成することで、小さな会社でも大きな会社と対等にビジネスを始められるような素地を創造したいと考えました。

 「楽天市場」にはもちろん、高島屋、エプソンなど大手流通業者やメーカーも出店してくれています。けれど私は、最も大切なのは個々では存在感を表すことが難しい、中小規模の店舗やメーカーであると思っています。これら店舗が、数多く揃うことで「楽天市場」全体の魅力が高まって集客力を生み、引いては個々の店舗の売り上げも増加するからです。口幅ったい言い方となりますが、このような形で中小企業をEmpowerするお手伝いをし続けたいと考えています。

 実際、「楽天市場」には既に1万5000の魅力的な店舗が揃っており、例えば「楽天市場」開設まもないころに出店した鶏卵販売店などは1カ月に1000 万円を売り上げるまでに成長しています。1個20円の鶏卵で月商1000万円を築くには、50万個を売り上げる必要があるわけで、これはトラフィックの多い(=来客数の多い)ネット市場だからこそ成し遂げられたことと思います。

 さて、今後の方向性についても少し、お話しさせてください。ご承知のとおり楽天は、2000年に株式を公開して以来、企業買収を積極的に進めてきました。グループ全体の時価総額は1兆円を超え、インターネット関連企業では世界ランク6位にまで成長しました。「楽天トラベル」、「楽天証券」など、各グループ内企業も、それぞれに高い市場占有率を持つようになっており、グループ全体での集客力は飛躍的に向上しています。例えば「楽天トラベル」は日本最大の宿泊予約サイトであり、現在、オンライン・オフラインを併せたJTBの旅行での年間延べ宿泊人数が2488万人泊(JTB宿泊白書2005より引用)であるのに対し、「楽天トラベル」はオンラインのみで1500万人泊(2004年実績)を稼ぎ出しています。

 しかし一方で、M&Aによる相乗効果が薄いのではないかという批判もよく聞かれます。内部的には戦略通りに動いているのですが、外からはなかなか見えづらいということなのでしょう。 私達は最終的に、グループ内企業全てを「楽天」ブランドの下に統合し、スケールメリットを享受していこうとしています。具体的にはまず、各事業体(「楽天市場」、「楽天オークション」、「楽天ダウンロード」などのEC事業、「インフォシーク」などのポータルメディア事業、「楽天トラベル」などのトラベル事業)の会員データベースの統合を行いました。

 これにより現在、航空会社がマイレージサービスで実現しているようなポイントサービスの提供が可能となりました。例えば「楽天カード」の利用者が、 VISA加盟店で買い物をすると1%のポイントが付き、貯まったポイントは1ポイント1円の換金率で楽天市場での買い物に使える。楽天ダイニングの中のレストランで食事をすれば10%のポイントが付き、やはりこれも買い物に利用できるという具合です。こうしたサービスにより、ユーザーは生活のあらゆる場で楽天のサービスを使おうと考えてくれるようになる。楽天ブランド全体でのリピート率や顧客単価が向上していくわけです。実際、「楽天証券」の新規口座開設数は、2003年にDLJディレクトSFG証券を子会社化して楽天証券とした当初には月に1000~2000件であったものが、先月(2005年11月)には3万件を突破しました。これは、楽天というブランドへの安心感や、新規口座開設時に付与しているポイントサービスなどが評価されたものと受け止めています。「楽天カード」は三井住友カードと提携したものですが、今後は独自のクレジットカードサービスも提供していきます。会員データベースを活用したより精緻なマーケティングなど、舞台裏ではシナジー効果の創出を着々と進めているのです。

 今後の方向性として、もう一つ、進めているのが海外への事業展開です。現在、eBayが28カ国、Yahooが26カ国、Amazonが7カ国でサービスを提供しているのに対し、楽天は日本国内のみ。Super Regional Companyです(笑)。しかし、人口減少に伴い日本の市場が収縮するのはまず間違いない。そこで将来への布石としてまず、2005年9月に米国 LinkShare Corporationを買収しました。同社は、アフィリエイトで世界最大規模の企業であり、今後は彼らが持つ技術や顧客データベースを核に、積極的な海外展開を図っていこうと考えています。

「右脳と左脳のキャッチボールでフレームワークを構築せよ」

楽天三木谷pict6これまでは楽天の戦略について主にお話ししてきましたが無論、戦略さえあれば事業が成功するというものではありません。とりわけ組織が大きくなってきたときには、組織全体が共有する共通の“バリュー”が必要と私は考えています。

 楽天の場合で言えばそれは、世界で一番のインターネットサービス提供者になること。この目標に近づくための行動規範として私は従業員に対し、「成功の5つのコンセプト」として以下のようなフレームワーク(枠組み)を示しています。

①常に改善、常に前進~Get Things Done~
  トヨタの車は2万個ものパーツからなると聞きます。同社の凄いところは、この2万の全てについて完成度を高めるべく日夜、努力を重ねて
  いるところ。インターネットのサービスも同様で、成功の可否は1%以下の細かいレベルでどれだけサービスや売り上げを向上できるかにか
  かっていると思います。人間は「達成できる人間」と「達成できない人間」の2種類に大別される。小さなことを積み上げ、達成することが
     大切と考えています。
②Professionalismの徹底
  ビジネスのプロとして当たり前のことを当たり前に行おうということです。
③仮説→実行→検証→仕組化
  仮説を立て実行し、検証した結果を、仕組みとして全体で共有しようという意味。
④顧客満足の最大化
  顧客が離れてしまえば事業は成立しない。ごく当たり前のことです。
⑤スピード!!スピード!!スピード!!
  インターネットの世界は日進月歩。ベンチャー企業が勝ち残っていくために非常に重要なファクターと思います。

 企業として、こうしたフレームワークを持っていることが強さにつながると私は信じています。実はこれまでお話してきたことは、ほとんど後付けで言葉にしたもの。私自身、ビジネスの大きな決断は、最後は直感で行っています。ただ直感で決めても、その後、必ず結果を分析し、フレームワークとして持つようにしている。“やまかん”と“直感”は違います。右脳で感じたことを、左脳で分析する、つまり「右脳と左脳のキャッチボール」を常に行い、考えたり感じたりするための基礎を常に自らの中に構築し続けることが重要と思うのです。