セミナー詳細

グロービス・クラブ 松井証券株式会社 代表取締役社長 松井 道夫氏講演 テーマ:「イノベーションの経営」

日時:2005年8月26日(金)  参加者:180名程度

はじめに

松井証券松井氏pct1「取締役会議で怒ってきた!」と始まった松井社長の講演。
その軽快で痛快な語り口と、斬新で逆説的な経営哲学に、参加者はどんどん惹き込まれていった。グロービス代表堀との対談や、参加者からの質疑応答と計2時間半。たっぷりと「松井節」をご披露頂いた。

成功は失敗のもと 成功したと思ったら失敗が始まる。

実は今日ここへ来る前に取締役会で怒ってきた。その気持ちの余韻がまだ残っている。
なぜ怒ってきたかというと、去年松井証券の個人売買金額が20兆円となり、野村證券は十数兆円で松井証券が、個人と言うカテゴリーであるが、野村を超えた。このままうまく行くと役員たちが暢気に構えていたからだ。
しかし、世の中は偉そうにしているとあっという間にたたき落とされる。
個人の売買金額20兆円といっても、個人がもっている株の総額80兆円のうち、松井証券での預りはたかだか1兆円強に過ぎない。
だまだ勝負はこれからということだ。まだまだ変化が始まったばっかり、これから何をするかが重要なのである。それを考えろと。

僕は今年で52歳。そろそろリタイアしたいと思っている。なぜかというと、よく、失敗は成功のもとというが、逆に成功は失敗のもとだと思っている。成功したと思ったら失敗が始まる。リタイアしなかったら必ず失敗するから。

正しかった決断はマイナスの決断 間違った決断はプラスの決断

松井証券松井氏pct2講演の中で前刀氏は、「Consumers… Not Technology!」という言葉を引いた。
ソニー在籍時のエピソードとして、研究所で開発された3D画像処理システムが最初は何に使えるか分からなかったが、数年後に小型化されてテレビ局用の特殊効果システムとして実用化、そしてさらに数年後に今度はICチップとしてゲーム機のPlay Stationに搭載されて本格的に普及したというエピソードを紹介し、「どんな優れた技術も、顧客ニーズがあって初めてその力を発揮する」と、言及。自身は、「優れた技術を、顧客が望む製品やサービスへと昇華させる一助となり続けたい」と、思いを語った。
iPodは、MDプレーヤーが主流であった携帯音楽プレーヤーの市場に旋風を巻き起こし、一気にトップシェアをものにした。その成功の背景には、iPodという製品を作り上げた技術以上に、顧客が望むものを創造し、適切な手法によって届けた、マーケティング手法の見事さが光る。
顧客ニーズは時々刻々と変容し、またその内容は顧客の置かれる環境によっても大きく異なる。ビデオ再生機能の搭載や、iTunes Music Storeによる幅広い顧客層に応じた音楽データの販売など、iPodは進化を続けている。それは、顧客が潜在的に抱えるニーズに常に添い続けられるものなのか—。iPodと前刀氏のその後に、まだまだ目が離せそうにない。
引き算では、外交セールスをやめると決断した。それは証券会社をやめるということと同義であった。それをあえてやった。どうしてそう決断したかというと、松井の売りは何だと営業に聞いた時、「それは誠意です」という答えが返ってきたからだ。

― 日本郵船で運賃カルテルがあった頃、どの会社も運賃、船、すべて条件が同じで何の差別化も出来なかった。クライアントに営業に行くと「誠意を見せろ」 と言う。どうしたら誠意と見てくれるのか尋ねると「ぴかぴかのコンテナを持ってきたら誠意とみなして積荷を載せてやる」と言われ、膨大なコストをかけてどんどん造った。ところが突然、海運同盟が崩れカルテルがなくなり、運賃が自由化された。するともうぴかぴかのコンテナを持っていっても、「そんなコンテナ買っているんじゃない。それより運賃を安くしろ」と言われた。本当の競争になったら、お客は「誠意」のコストなど認めてくれないのだ。

営業マンの「誠意」という答え聞いたときにその事を思い出した。売りは「誠意」か・・じゃあいずれ要らなくなるな。ぴかぴかのコンテナと一緒だ。いつまでも抱えていたら自由化になった時に大変なことになる。それで外交セールスを廃止すると宣言し、電話の通信取引に変えた。優秀な女性をやとって、コールセンターをつくり、投資相談や株のセールスを一切止めて、注文を受けるだけにした。

すると、営業マンはみんなお客さんを連れて自分から辞めていった。
でもお客さんはどんどん増えた。これがインターネットの活用以上にまず大改革だった。まさに事業の再構築(リストラ)だった。
その後、コールセンターを捨てて、インターネットにシフトした。

坐忘

好きな言葉に「坐忘」という禅の言葉がある。坐して忘れる。
変化のスピードが凄まじい時は、捨てるということが重要。過去を捨てる。
過去に大変な努力、苦労をして積み上げたものでも、あえて捨てる。そして得るものは未来です。
それは計算できないもの。捨てる痛みが分かるものを捨て、計算できないものを得ようとする。
当然みんな、大反対する。でも古いものを捨てなければ、新しいものは入ってこない。
数式で表すと「2-1>3」。引くことによっ て増える。
なぜなら、引いた1の中には、マイナスが含まれている。これを意識すべし。

天動説から地動説へ。顧客第一主義から顧客中心主義へ。

松井証券松井氏pct37年ほど前、海外の著名なストラテジストに、「ミスター松井、これからはお客さんの言う事を聞いちゃいけない」といわれた。そのうち分かるから、といって彼はそれ以上何も言わなかった。
彼はこんな事をいったのではないか。「天動説から地動説へ」。
天動説は、企業がという星を中心とした宇宙。周りに業者・当局などたくさんある星の中で一番大事なのはお客さんという考え方。
日本でいうと「顧客第一主義」。自分をでかくして、重力を高めて、引力を高めて、顧客を囲い込め!というもの。
・・・そんな時代は終わったよ、と彼は言っていたのだ。
地動説とは、中心は消費者=お客さん。そのひとつひとつの「個」が中心。供給者=企業はお客さんに向かって指を突き出す。「この指はこういうものです。
いいと思うなら、この指をつかんでください。」こういう「このゆびとまれ」モデルである。
つまり、“顧客第一主義”でなく“顧客中心主義”である。お客様は囲いこまれたくない。競争していないから、これまでこういう事に気が付かなかった。
情報革命というのはそういうものだと思う。

組織の時代から個の時代へ

「好き嫌いで人事」と言う本を書いた。
組織の時代から個の時代になる、ということが言いたかった。
組織が個を助けてくれることってありますか?
オイルショックの3年後に起こったダグラス・グラマン事件で、ある総合商社の常務が遺書を残し自殺した。その遺書を紹介する。
「男は堂々とあるべき、会社の命は永遠です。その会社のために私たちは奉仕すべきです。(中略)今日の疑惑、会社のイメージダウン、本当に申し訳なく思っています。責任取ります。」

当時、これを読んで僕は泣きました。会社に忠誠を尽くせば会社が報いてくれると、
みんなが信じていた時代。この遺書を読んだ時にはみんなバカだとは思わなかったでしょう。

いまや、発想の転換が求められている。場合によってはいつ辞めてもいい。
いつでも企業から自由になれる。個の集まり。それが組織である。
僕は松井証券のなかでは社長であり、リーダーである。
でも、松井証券は永遠だ!なんて毛頭いうつもりはない。
僕というリーダーが違う人間に交替したら、松井証券という組織もまた全然別のものになる。それが当たり前だ。組織ありきじゃない。

いつも社員に2つのことを言っている。「どうか給料をもらって働くのはやめてください。働いて給料をもらってください。」「頑張らないでください。頑張るのではなく自分たちが頑張らなくていい方法を考えたら、お客さんからたくさん利益をもらえるのです。」と。

まとめ

一番言いたかった事は、今後は組織の時代から個の時代になるという事である。松下幸之助さんの言葉に「執念なきものは困難から発想する。執念あるものは可能性から発想する」というのがある。
これはとても良い事を言っている。
執念=主体性と考えてればより分かり易い。リーダーは、時代とのギャップを縮めることが一番大事。

その後、第二部の堀代表との対談では、松井社長のエネルギー源や発想のきっかけとは?と言った話から、ブログ時代の選挙の話まで多岐に渡った。

スピーカープロフィール

松井 道夫氏 〔まつい・みちお:松井証券株式会社 代表取締役社長〕

松井 道夫氏 (まつい・みちお)氏のプロフィール
1953年長野県松本市生まれ東京育ち。
一橋大学経済学部卒業後、日本郵船に11年間勤務。
1987年に義父の経営する松井証券に入社。
1995年に代表取締役社長就任、現在に至る。
98年インターネット取引を開始。
99年の手数料自由化を機に爆発的に業績を伸ばす。
01年に東証1部に上場。
04年の年間委託売買金額は20兆円と、個人の株取引では野村ほか大手証券を凌駕するまでに至っている。